受験の結び方

Aさんのお父様(2024年度/栄東中学校 進学)

まず、はじめに、中学受験という挑戦を終えた受験生たちに
敬意を表したいと思います。
決して楽しいだけの道のりではなかったことと思います。
若い時分に戻りたいとは思いませんが、眩しい輝きを身に纏い、
大きな目標に向かい勉強に打ち込む受験生たちを少し羨ましく思います。


調べ事や読書が好きな私は、
子育てや教育に関する本を100冊近く読んだと思います。
妻とも子育てについてよく話し合いました。
そんな我が家の教育方針は、よく動き、よく学び、
よく遊び、よく食べ、よく寝る………、亀仙流に行き着きました。

早寝早起きに努め、毎日家族みんなで食卓を囲み、
よく話し、よく笑い、たくさんの本を読み、
公園で体を動かし、まとまった休暇が取れたときには、
大自然の中でキャンプをしたり、祖父母を交えて旅行をしたりと、
夫婦間・親子間・姉弟間で小競り合いを起こしながらも、
当たり前の日常を当たり前に過ごすことが、
子どもが豊かな人生を歩むための基盤になると考え、
日々を過ごしてきました。


私たち夫婦は、ともに公立校の出身、
努力と気合と根性で世の中はなんとかなると思っている脳筋タイプ。
中学受験とは無縁の人生でした。
しかし、娘は、3年生からWisardに通う御縁に恵まれ、
新4年生になるタイミングでSAPIXへの通塾を勧められました。
SAPIXの宿題の量に、脳筋夫婦は
「これが小学生のこなす勉強量なのか」と衝撃を受け、
成績の上がり下がりに右往左往しましたが、
娘はコツコツと勉強に取り組み、
今思えば、6年の秋までは、おおむね順調に過ごしてきたのかなと思います。

6年の秋は、勉強しても勉強しても結果が出ないことに
苦しんでいる様子でしたが、それでもこつこつと勉強を続け、
最後には少し状態を上向きにし、1月からの本番に臨むことができました。


初戦の栄東中では順調に合格をいただくことができました。
そして、それが、娘がつかんだ最初で最後の合格となりました。
発熱のため回避した試験もありましたが、
第2志望、第3志望の学校に合格することができず、
第1志望である豊島岡も2日・3日と不合格。

娘は、緊張してガチガチになるタイプでもなく、
また、突出した得意科目があるわけではありませんが、
特別に苦手な科目もなく、1教科の点数が伸びなくても、
他の3教科でカバーできることから、
わりと入試に向いているタイプだと考えおりました。

加えて、第2志望の学校は、過去のSOでの志望校判定は全て80%、
過去問も十分に合格点に達しており、
正直、第2志望・第3志望のいずれかの学校には合格した状態で
豊島岡に挑めると思っていました。


3日の不合格を知ったのち、4日に豊島岡をもう一度受験するか、
合格する可能性の高い別の学校を受験するか、家族で話し合いました。

私も妻も4日の豊島岡に合格するのは難しいと考え、
合格する可能性の高い学校の受験を勧めました。
阿部先生からも、娘に同様の趣旨の話をしていただいたと思います。
しかし娘は、「豊島岡を受ける」と一言。

試験を受けていない私たちですら過酷な状況でした。
本人にとって、なおさらだったのは間違いありません。
それでも、最後の試験に向かう娘の後ろ姿は凛としたものでした。

もしかしたらという想いもありましたが、豊島岡の壁は高いものでした。
4日の結果を見終わった直後、娘はなお勉強をしようとしました。
その姿には、さすがに込み上げるものがありました。
「もう勉強はやめよう。少し休もう」と娘に伝え、
わが家の中学受験は幕を閉じました。


試験が終わり、少したったころ、
合格する可能性の高い学校を受ければよかったって思わなかったのか、
と娘に尋ねてみました。
すると、「豊島岡に合格するために頑張ってきたから後悔はないよ。
受からなくて悔しいけど。
それに、勉強嫌いじゃないから栄東で頑張るよ」

本心なのか、強がりなのか、親への気遣いなのか、
それは娘にしか分かりません。
もしかしたら娘も分からないのかもしれません。
ただ、娘が「これでよかった」と言うのであればそうなのでしょう。


私たちは、受験する学校はどこも素晴らしい学校だから、
どこか一校でも合格することができれば十分に素晴らしい結果だね、
と事前に話していました。
そして、ここまで不合格が続いた場合の娘の気持ちにまで
考えが及んでいませんでした。
親として、あれだけの努力を重ねてきた娘の受験の
最後の結び方をなぜはっきりとさせておかなかったのか、
最後、笑顔で終わらせてあげたかったという気持ちが残ります。

これから受験される方は、中学受験の最後をどのように結ぶのか、
熟慮して試験に挑んでいただきたく存じます。


幸い、栄東から合格をいただくことができました。
自宅から最も通いやすく、盛んな部活と娘の趣味が
合致していることに加え、校風が脳筋夫婦に響きます。
また、完全給食であることに妻は狂喜乱舞。
本当によく合格してくれました。


娘よ。
よくぞ、ここまで頑張った。
きみの親であることを誇りに思う。
5年生の途中からは、塾以外、ほとんどすべて自分の力で勉強をしていました。
もしかしたら、もっと親を頼りたいと思ったことがあるかもしれません。
私たちも手を貸すべきか迷いました。
でも、私たちはきみが自立することを目標に据えているので、
見守ることにしたのです。
これからも自分のことは、自分でしてください。
その試行錯誤が将来の武器になります。
わが家の中学受験は、きみが99.9%でした。


最後になりますが、阿部先生、畠中先生には、
長きに渡り、本当にお世話になりました。
娘の勉強のみならず、親である私たちまで支えていただき
(弟にも本を貸してくださり)、おかげさまで、
無事に中学受験を終えることができました。

私はこの受験において大したことはできませんでしたが、
Wisardと娘を引き合わせたことだけは、自信をもって、
私のファインプレーだったと言えます。
娘は良くも悪くも本当に聞き分けがよく、
大人の意図を汲んで行動する子です。
そんな子が、3日の夜、私たちの考えを踏まえた上で、
自身の意志を貫き通したとき、万感の思いが込み上がりました。

勉強を通じて、娘を一人の人間として大きく成長させていただいたことに
何よりも感謝申し上げます。
本当は、もう少しの合格を伝えることで
御恩に報いたかったと娘も思っているはずです。
でも、きっと将来、「中学受験のときの経験があったから、
今の私があります」と娘は報告に行くはずです。
そのときまで、どうか首を長くしてお待ちください。


ちなみに私は、合格体験記が公開されるのを、
毎年首を長くして待っております。

今年は娘がどのような合格体験記を書いたのかも気になるので、
例年より首が長めでございます。

Wisardよりメッセージ

進学おめでとうございます。

娘さんはとても大人びた立派な子で、
受験生としての1年間、よく戦ってくれました。
ご両親がお子さんを大切に守ってあげる一方で、
守るだけでなく自分で考えて動ける存在として尊重していることを伺い、
だから、こんな素敵な子に育つんだな、と思っていたものです。

1月と2月の入試どれも、
足りなかったのはおそらくマル1つか2つ。
それを後押ししたかったという気持ちはもちろんあります。
作戦としても、2月4日は豊島岡でない方の学校を受験していたら、
きっと合格していたはずです。


ですが、最後、2月4日の受験に際し、
さも当然という様子で、
お子さんが自分の意思を迷わず貫いたことを、
むしろ褒めたいような気持ちでいます。

栄東が合っている環境であるという点も
もちろんありますが、
彼女が周囲の大人の勧めにも耳を傾けたうえで、
自分なりのこだわりを持てるようになったことがよくわかるお話だからです。


未来は自分の気持ちひとつで、いくらでも変わります。
なぜだかははっきり説明できないけれど、
自分はどうしてもこうしたい、という気持ちが湧き上がってくることが、
すべてのエンジンになるはずです。

栄東の6年間はきっと大きな成長の時期になります。
頑張りすぎないように、時にはブレーキをかけてあげてください。
彼女は言われなくてもやるタイプ。
あんまり言われると、入り込みすぎてしまうかもしれませんから、
心配なのはその点だけ。

次に教室に来てくれる時を待っています。

阿部

2024年