今回は、もうだいぶ昔のことを書こうと思います。
もうずいぶんと、長い時がたちました。
僕が20才だったクリスマスイブの、忘れられない出来事です。
冬休みになり、いつも通りクリスマスの予定もなかった僕は、
ひとりでゆっくりこれからのことを考えたいと思い、
首都圏から離れた山の頂上に来ていました。
ふだん山登りなどしたことがありませんでしたから、
ずいぶん背伸びをしたものです。
今でこそ、ソロキャンプは流行っていますが、
当時はあまり聞きませんでした。
出発前には、「逆に寂しくないの?」と不思議そうな顔をたくさんされました。
ことばで説明するのは難しいのですが、
山に一人で登り、
半径数kmに人が一人もいないような場所で、
自分で背負ってきた燃料であたためたミルクをすすると、
初めての経験ということもあって、格別の味がしました。
日が暮れると、星空は東京では経験したことのない輝き。
湿度0%以外に考えられない空気は、
ガラスのように澄んでいました。
携帯電話も圏外です。
自分探しのためには、別に海外に行かなくてもいい、
この山に来てよかったな、ひとり頷いたときのこと。
電池式のランタンがぷっつりと切れてしまい、
自分の準備不足に苦笑いしました。
唯一の明かりがなくなり、
あたりは漆黒の闇に包まれるはずでしたが、
星空がぼんやりと辺りを照らしてくれます。
まあ、いずれ朝が来るさと、
寝袋にくるまり、夜空を見上げながらうとうとと、眠りに落ちました。
ちょうど真夜中にさしかかった頃合い。
驚くべきことが起きました。
初めに書いておきますけれど、
このことは人に話すのも、文章にするのも初めてなので、
どうか秘密にしておいてくださいね。
風を切る音と、
大きな木のかたまりと中身のぎっしりつまった袋が落ちるようなものすごい音が、
どすんとテントの真横で響き、飛び起きました。
おそるおそるテントから顔を出すと、
夜はさらに深くなり、幾千の星の光も、届かないような暗さでした。
目の前には温かい息を吐く大きな4匹の動物がいることはわかり、
その後ろには大柄な人影がしりもちをついているのが、
ぼんやりと見えました。
本来はおそれなければならない状況です。
ですが、ゆっくりと立ち上がったその人物の声はどこか、
人を安心させるハンドベルのような響きがありました。
「やれやれ、せっかくのクリスマスイブだ。
明かりの1つくらい、つけておいてほしいものだね?」
「すみません、
ランタンの電池が切れてしまって」
「おかげで、降りてくるのに難儀してしまったよ。
ひらけた場所だったから、まだよかった。
森の中だったりしたらと思うと、ぞっとするね」
突然現れた相手なのに、すんなりと会話が始まったことを、
いまでも不思議に思います。
彼の声はしわがれていましたが、とても優しいものでした。
「君ももう、今年で20才だろう?
18才のイブに、プレゼントがなかったことを覚えているかい?」
そう、毎年楽しみにしていたクリスマスプレゼントでしたが、
17才のクリスマスが最後になっていたんです。
「ええ。少しだけがっかりはしましたけれど、
いつかは…………終わりが来ると思っていましたから。
17才までとは、少しキリが悪いのでは、と確かに思いましたよ。
でも、いつかそうなるだろうとわかっていましたから」
「いや、それは実は手違いでね。
もちろん、18才までの予定だったんだよ。
ただ、ちょっとしたケアレスミスというやつさ。
わかるだろう?」
「手違いですか。
あなたのような方でも、ミスをなさることもあるんですね。
思ったよりも、慌てん坊…………なんですね(笑)」
少し目が慣れてきて、
その人物が見たこともないほど大柄で、
真っ赤な生地のコートを着ていることがわかってきました。
「そうだ。もうずいぶん長いこと、仕事をしているからね。
人間はずいぶん増えて、なくなってしまったものも多いけれど、
私のことを待っている子どもたちは増えるばかりだから。
でも、それは言い訳にはならない。
申し訳ないことをしたな、ずっと気にかかっていたんだ。
それで、2年遅れてしまったが、
今年こそ穴埋めに、と思ってね」
「おかげで、あなたとこうしてお話ができたんです。
申し訳ないなんて、とんでもないですよ。
忘れられない日なりました。
でも、どうして去年でなく、今年だったんでしょう?」
思わず、そう尋ねました。
「去年は、ふさわしい贈り物がなかったんだ。
プレゼントは、その子どもが心から願うものを送ることにしている。
いつも、心で描いていたプレゼントが届いていたはずだよ。
でもこの2年間は、君には欲しいものが、なかったんじゃないかな?」
「……………………。
そう言われれば、そうかもしれません。
でも、いまも欲しいものなんて、何もないような気がします」
「いや、あるよ。
ぴったりものだ。
これからの君に必要なものが、ね」
そう言って、彼は懐から赤いリボンで飾られた、
白い小包みを取り出しました。
僕はそれを受け取ると、
彼が言う、僕に必要なものとは何だろうという好奇心に駆られて、
すぐにあけてみることにしました。
「これは、3色ボールペン?
STYLE-FIT、ですか?」
小包みから出てきたのは、
特に変わったところのない、普通のボールペンでした。
「そうだよ、でもただのボールペンじゃない。
君は、算数の先生になることにしたんだろう?」
内心を、あまりにもズバリと言い当てられたことに驚きつつも、
僕は頷くしかありませんでした。
「そのペンには、特別な魔法がかけてある。
誰よりもわかりやすく、算数が教えられるようになる魔法がね。
やりたいことが見つかった君には、役に立つはずだよ。
いつかそれがいらなくなる日が来るだろうが、
それまでは、大事に使うといい」
そう言われてみると、そのボールペンを持っていると、
不思議と力が湧いてくるような気がしました。
「ありがとうございます。
こんなに素晴らしいプレゼントは初めてです」
「ただ、こうして話すことになったから、
申し訳ないが、少し特殊な事情になってしまってね」
「確かに、こうしてお話をできるなんて、
夢のようです」
「そう、わたしと言葉を交わしたりするなんてことは、
本来はありえないことなんだ。
わかるだろう?
だから、君に………………、
「次」をやってもらわないといけなくなった」
そのことばは、僕の胸にすとんと落ち、
当然のことのように受け入れることができました。
「とても名誉なことです。
もちろん、僕にできることでしたら」
そう答えると、あたりは真っ暗なのに、
彼の真っ白な髭が愉快そうに揺れるのがわかりました。
「そうか、よかった。
ではそうだな、来年はきっと、冬期講習で忙しいだろうね。
講習が始まる頃に、こちらから連絡しよう」
そう言うと、彼と4匹の角を生やした動物は、
音もなく空に舞い上がりました。
空に舞い上がった、ですって??
きっと、信じられないでしょうね。
僕も信じられませんでした。
素敵な夢を見られたことに感謝し、
ぐっすりと眠りました。
ところが、です。
朝日に照らされて目を覚ますと、
僕の手には3色ボールペンが、
しっかりと握られていました。
そのボールペンは今も現役で使っていて、
手放す予定は、今のところありません。
というわけです。
いつか誰に話したかったのですが、
おいそれと話せることではありませんから、
こっそりブログに書いておきました。
これがエピソード0で、これで本当にネタ切れ、
もう隠していることは、一つもありません。
このことについては、
授業では質問は受けつけないことにしようと思います。
続きを読みたい方は、こちらを。
【中学受験】12/24は年に一度の特別な日。その秘密をこっそり明かします。
【中学受験】12/24は年に一度の特別な日。2020年もその秘密をこっそり明かします。
【中学受験】12/24は年に一度の特別な日。2021年もその秘密をこっそり明かします。
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【中学受験】算数講師が今こそ語る、クリスマスの真実 エピソード0

阿部先生
大変、ご無沙汰しております。
お元気そうで何よりです。
毎年のネタ探し、大変でしたよね。。。
ここはキッパリあきらめて、気軽に更新してくださいね!笑
ひさしぶりに(スミマセン…)先生のブログを読ませていただきました。
とてもなつかしい時間がながれていて、昨年までは我が家もこんな時間を過ごしていたとは思えないくらいです。。。
昨年の生活とは一転した日常をおくっていて、必要最低限の外出しかしておらず、ほぼ引きこもっています笑。(太っちゃいましたー)
昨年のクリスマスの記事を読ませていただき、にんじんはしばらく前にかじらなくなっていたこと、昨年からサンタ業務がなくなっていたことを思い出すことができました。。。(昨年までかじっていたつもりでした笑)
これからも変わらずに更新してくださいね!
(自分のコメントを読んで、過去を思い出すきっかけにさせてください。)
今年度の生徒さんのご健闘をお祈り申し上げます☆
それでは。
ずっと、更新続けてくださいね!
阿部先生、毎年この物語を楽しみにしていました。
まさかのエピソード0!!
ありがとうございました。
>2581さん
コメントありがとうございます。
クリスマス記事はそろそろ書くことがなくなりそうですが、
どうでしょう。
エイプリルフールも近いんですよねえ…………(笑)
お子さんが中学に通うようになってもブログを読んでいただき、
ありがとうございます☆
>塾生保護者さま
毎年楽しみにしてくださるなんて、とても嬉しいです。
もうこれ以上、書く内容がなさそうなので、
期待を裏切ってしまうのではと、とても不安です…………。