ご縁坂をのぼって

Sくん・Sさんのお母様(2020年度/海城中・豊島岡中進学)

この坂道をのぼるのも、最後かな。
あと数日で、双子の受験が始まる。
一歩一歩踏みしめるように、慣れ親しんだWisardへの坂道をのぼり始める。
ふと、よみがえる記憶。
そう、あれは10年前、高校生の長男が幼稚園年長の時だ。
SAPIXの新1年生入室テストを受けるために、初めて南浦和の地に降り立った日のこと。
果たして、無事SAPIXに入室できるのか?
テストが終わるまで、私は辺りを散策することにした。

マルヒロの横の坂道をのぼっていくと、何やら声が聞こえてきた。
「へー。ここにも塾があるんだ」
先生らしき人の姿が見えた。
どうやら保護者会のようだっだ。
少し気になったが、歩みを止めることなく坂道をのぼっていった。
幸い入室テストに長男は合格し、1年生からSAPIXに通い始め、私の「南浦和通い」はスタートした。
よもや、これから10年近く通うことになろうとは、この時は予想だにしていなかった。




それから2年の月日が流れた。
SAPIXに通いながらも、まだまだ時間に余裕がある時期。
長男は、新3年生になろうとしていた。
本格的に受験勉強が始まるのは、4年生から。
であれば、その1年前にできるだけのことはしたい。
あれこれ調べていくと、1つの塾のホームページにたどりついた。

「埼玉から難関へ。進学教室Wisard」

これが、私とWisardとの出会いだった。
埼玉どころか南浦和、しかもSAPIXの近くにあるではないか!
場所はどこ?ああ、あそこの塾か!
それから数日、ホームページを隅々まで熟読し、ある決意をした。

「はじめまして。
突然のメール、失礼致します」

母とは、子供のためなら大胆な行動にも出られるものだと、
我ながら感心した。
Wisardに入室できるのは一番早くて、3年生の9月から。
それは承知していたが、半年以上待つことはできなかった。
子供の勉強は、そろそろ素人の母親からプロの先生にお願いする時期だと思っていた。
失礼なことは重々承知、断られるのを覚悟で、阿部先生宛にメールをお送りした。
はじめは、メールでは失礼かと躊躇した。
だが経験上、勤務中の電話は正直迷惑なこともある。
勤務中の相手への電話は、よっぽどの緊急でのみすべきだと思っている。
ましてや、どこの誰かも分からぬ母親からの学習相談。
数分で終わるはずもない。
メールであれば、先生のご都合でご覧頂けるのではないか。
返事が来なくても仕方がない。
そんな思いでメールにてご相談することにした。サピックスでの成績や家庭学習の内容等をお伝えし、現時点で何をすべきかをご教授願いたい旨を記載した。

なんと、すぐに阿部先生からお返事のメールが届いた。
更に驚くべきことに、会ったこともない我が子へのご見解やアドバイスがびっしりと書かれていて、すぐさまプリントアウトして読み始めた。
正直、「9月になったら再度ご連絡下さい」と送り返すこともできたろう。
実際、アドバイスだけ聞いてWisardに入室しない可能性だってあるはずだ。
であるのに、どうだ、この対応は!
神対応という安易な表現は神様に失礼なので、普段私は使わない。
だが、この時の阿部先生は、まさに「神対応」だった。
それから、数回にわたり近況報告と再度ご相談という、厚かましいメールをお送りするも、相変わらずの「神対応」であった。


「一度、体験に来てみませんか?」

3年生の夏。
ついに、この時が来た。
9月になったら絶対入室する!と心に決めていた。
緊張しながら、Wisardの教室の扉を開けた。
この時、運命の扉を開けたのだと思う。
その瞬間、くるっと椅子が回った。
「初めまして。
Wisard代表、阿部でございます。
メールでやり取りしておりましたので、初めてという気がしないのですが、ようやくお会いできましたね」

なんというきびきびとした声。
賢そう。さすが東大!(低俗で申し訳ありません)。
長男は、ホームページと同じ先生が目の前にいることを、とても喜んでいた。
その後、体験授業を受け、入室。
体験授業を拝見した際、阿部先生が黒板に「あべ」とお書きになったのを今でもよく覚えている。
Wisardでは最年少の生徒で、上級生と机を並べて勉強している息子を見て、心底良かったと感激していた。
息子も、上級生の生徒さんに話しかけられて、喜んでいた。
たくさん解いて大きな丸をもらったプリントを、私に見せてくれた。
コートを羽織る際に、フードが邪魔でリュックをうまく背負えず、悪戦苦闘していたことがあった。
傍から見て、よっぽど心もとなかったのだろう。
以後、コートを羽織る際に、なんと畠中先生がフードやカバンを直してくださるという恩恵まで享受することとなった。


この長男、4月から高校2年生。
相変わらず、独自の着方(畠中先生はご存じですね)でコートを羽織っている。
その度に、我が家では畠中先生のお名前が挙がる。
本当に感謝してもしきれないことばかり。
かくして、長男はWisardに楽しく通い、仲間と切磋琢磨し、無事受験を終えた。
その4つ下には、双子の弟妹育っていた。
年齢が離れていたため、長男がWisardを卒業して、この双子がWisardの門をたたくのに2年近い月日を要した。
南浦和とは疎遠になったが、時折「アベブログ」を拝読して懐かしんでいた。



さて、今回受験を終えた双子(男女)の登場。
長男とは、全くと言っていいほど性格が異なる。
実に一筋縄ではいかぬ2人で、長男が過去問を解いている時、隣の部屋でプロレスごっこをして何度も私に怒られても止めなかったという、素晴らしいエピソードを持つ。
この度、Wisardの多大なるお力で、無事受験を終えた訳だが、ここまでの道のりは茨と言うべきか、ジャングルとう言うべきか。
長男が受験を終えた時、2~3年老けたと感じたが、今回は5年以上は老けたと思っている。
2人はゲームソフトのラスボスの如く、母である私をギリギリまで追い詰めた。

瀕死の状態の私は「聖Wisard教会」に何度も駆け込み、阿部・畠中大司教様達に救いを求めた。
時には愚痴をこぼし、時にはアドバイスを求め迷える私を、大司教様達は良き道へと導きたもうた。
自分の子供であっても、一人一人皆個性があると言うが、長男の受験を通して積み上げてきたものが通用せず、長男とのあまりのギャップに、悶え苦しんだ。
今になって気づく、長男の真面目さ。
「真面目は、大いに賞賛すべきこと」と長男に告げると、ぽかんとしていた。
自覚がないのが、これまたよろしい。
長男の時に阿部先生にご相談した内容など、今となっては実に可愛らしいものであった。


更に、双子もまた別の人間。
性格も異なる。
生まれた時からずっと一緒で、仲も良いがけんかもする。
お揃いの物が欲しい時もあれば、自分だけ優越感に浸りたい時もある。
そして、双子受験の大変な点は、なんといっても点数・順位がでることだ。
テストを受ければ点数がでる。順位がでる。
この双子の受験の難しさ・大変さは、受験終了までずっと続くことになった。
普段のSAPIXの授業点もそうなのだが、マンスリーや組分けテストになると、我が家は荒れ模様になった。
同点だっだことも数回!あるものの、基本的にはどちらかが勝つ。
たとえ、自分自身過去最高の点数・順位をとっても、すぐ隣のライバルに負けたと知った途端、嬉しさは悔しさに変わる。
ましてや賞状やメダルを見た日には、見たくなくても視界に入るし、歓喜の声も聞こえる。
この時ばかりは、双子はかわいそうだなと感じた。

この時、親は当然、いわゆる負けた方のフォローを優先した。
心が折れぬよう、腐らぬよう、細心の注意を払った。
しばらくテスト結果について、家族の前で話題にしないようにもした。
一方、勝った方に対しては、大いに褒め共に喜んだ。
具体的には、別室で二人きりで囁き声で万歳をしたり、ぴょんぴょん跳んだりして、努力を称えた。
このフォローは、普段のSAPIXの問題が解けた解けないでも同様に行った。
最終的には、言い方は悪いかもしれないが「切磋琢磨して2人とも同じレベルに仕上がる」ことを目指した。
一方で、2人には常々
「双子と言えども別々の人間。
だから、チャンスは平等に与える。
けれど、その後は自分次第」と言い聞かせてきた。



6年生後半になると、志望校の合格判定も出て、更にヒートアップしていった。
「これからは、男女別の順位を見ること。
別々の学校を受験するのだから、ライバルではない。
むしろ、すぐ近くで自分と同じ立場で頑張っている受験生の姿をリアルに見ることができる。
これは、双子だけの特権である。
せっかく、縁あって双子で生まれてきたのだから、最高の同志だと認識するように」
本当に同性の双子でなくて良かった、と何度思ったことか。
確かに、学校説明会や学校別サピックスオープンも2倍、プリント整理や過去問コピーも2倍と、混乱・多忙をきたすファクターは多々あったが、受験校が別々だという安堵に比べれば大した問題ではなかった。
そしていよいよ入試が近づいてくると、最後にして最大の試練が立ちはだかった。
それは、入試2倍ということは、合格発表も2倍。
マンスリーテストの結果どころではない。


自分自身に課した最大の使命。それは、

「2人とも合格させること」。

入試だから当然と言えば当然なのだが、「2人とも」という所が最大の使命たる所以である。
まずは何としても、1月校は、2人とも合格させなくてはならない。
万が一結果に差が出た場合、2月までの勉強に支障がでるのを何より恐れたからだ。
入試が始まったら、結果を友達同士で絶対口にしないこと!などと言われるが、双子では問答無用。
丸わかりである。
これは非常に辛い。
そのため、過去問との相性を十分に検討した。
同じ学校を受験するのか、別々の学校にするのか。
考えがまとまらず、混乱をきたした。
日によって、考えが変わり、阿部先生に何度ご相談したことか。
2月校よりも、むしろ1月校に心血を注いだ。
当の本人達はというと、12月になってものんびりしていた。
冬期講習になっても緊迫感がなく、親だけが苛立ちと焦りが募っていった。
幸い、2人とも1月校全て合格することができた。
心から安堵した。
しかし、2人とも安心したのか、緊張感がない。
図太いのか。自覚がないのか。
2月まで残り3週間。私は、ある決断を下した。


Wisardで毎日ひたすら勉強する3週間。
これほどがむしゃらに頑張ることは、この先もなかなかないのではと思うほどのスケジュールを立てた。
阿部先生に却下されると思ったが、異様な気迫を察知されたのか、了承してくださった。
この決断が吉と出るか凶と出るかは賭けに近かったが、このままでは絶対後悔すると思った。
2人にも、人間必死になるべき時があることを知って欲しかった。
不思議なことに、この計画を知った時、2人は最初驚き戸惑っていたが、阿部先生同様に母の気迫に押されたのか、自分なりにこのままではまずいと思ったのか、すんなりと受け入れた。
そして、毎日きゃっきゃと楽しそうにWisardに通い、勉強した。
SAPIXがある日は、朝から晩まで勉強となった。
1人だったら孤独で辛かったかもしれない。
双子だからこそ、通い続けることができたのではないか。
そこには親にも入り込めない、双子の絆があるのだろう。
送迎していた私も、あれ程切羽詰まっていたのに、この3週間はなんだかとても楽しかった。
Wisardへ続く坂を毎日毎日のぼるのも、苦ではなく足取りも軽かった。
帰り道、Wisardのことを話しながら、3人で一緒にたこ焼きを食べた。
とてもおいしかった。
30日まで、誰も緊張を訴える者はいないほど、毎日がとても充実していた。



1月31日。
ホテルに前泊した。
主人も加わり4人。
そして、試験休みの高校生の長男は、不測の事態に備えて自宅待機とし、万全の体制をとった。
ホテルに着いても、2人はいつもと変わらない様子だったが、私は少し心配していた。
今夜この子達は、寝ることができるのだろうか?
明日の朝、パニックになったらどうしよう?
いろんな思いが錯綜しつつ、表向きはポジティブなことを言っていつも通りを装った。
21時、就寝。さあ、どうだ?
眠れないよう!と言いやしないか?もしそう言ってきたら、横になっているだけでも疲れはとれるよと言おうと決めていた。・・・。

あれ?いびきかいてる。
図太いんだね。安心したよ。
杞憂に終わり安堵するも、私の方はあれこれ考えてしまい、4時間後やっと寝ることができた。
やれやれ。


2月1日。
ついに、この時が来た。
今日は息子の第1志望校の日。
何度も学校説明会や文化祭に足を運び、ここにすると決めた学校。
娘と主人、息子と私という組み合わせ。ホテルで分かれ、ここからは別行動。
次に会う時は、試験を終えている。
どんな顔して帰ってくるのだろう?
心配な気持ちが顔に出ないように気をつけた。

「じゃ、頑張ってくるよ!」

私は耳を疑った。
そして、娘を見て驚いた。
生き生きとした表情で、とても輝いて見えたのだ。
驚く私に気づくこともなく、娘はあっさりと出かけていった。
私自身が受験した時、こんな表情はしてなかったなあ。
すごいな。娘の第1志望校はダントツで2日。
1日の学校に合格することへの執着がなく、何度も私と衝突した。
その娘が、面と向かって頑張ってくると言った。
がちがちに緊張してもおかしくない入試の日に、頑張ってくると笑って言った。
この時、もう、いいかなと思った。
この言葉を聞けただけでもう満足した。
娘には勝算があったのかもしれない。
しかし、普段の娘からは想像できない、実にたくましい言葉を聞くことができた。
入試の朝にもかかわらず、娘の成長に感動してしまった。


試験開始。
待機室で、2人の学校の試験時間と科目を確認。
うまくいくように念を送ったり、1人で不安になったり、落ち着かない時間を過ごした。
2人分の不安は、とてつもなく重く私にのしかかった。

試験終了。
もうすぐ息子が試験会場から出てくる。
どんな表情をしているだろう?
どんな言葉をかけようか?
とにかく、ポジティブに・・・。
息子、発見!

「全部、力を出し切った」
私は再び耳を疑った。

「すらすら解けて自分でもびっくりした。
空欄もなかったし、自信がある」

ホテルに戻る前に、昼食をとった。
興奮しているのか、息子はとても饒舌だった。
デザートをぺろりとたいらげると、テーブルに突っ伏した。

「全部出し切ったから、疲れた」


3週間前、受験生とは思えぬ態度に大バトルとなった。
それまでにも、幾度となくバトルを繰り返し、その都度阿部先生にご相談した。
その息子が、全力を尽くして試験に臨んで、今、私の目の前で精も根も尽き果てている。
なかなかこの言葉は言えるものではない。
本当に全身全霊で頑張ってきたんだな、ああ、もう充分だなと思った。
と同時に、不安が襲ってきた。
これだけ手応えがあったのに、もし、残念な結果になったら息子は立ち上がれるのか?
期待と不安が渦巻く中、ホテルに向かった。
さて、娘はどうか?

娘の学校は午後に面接があったため、我々の方が早くホテルに戻った。
しばらくすると、娘と主人が戻ってきた。

「たっだいま~」

再会を喜ぶ双子の図。
娘もかなり手応えがあったようで、2人で出題された問題を言い合ってはしゃいでいた。
明日は、娘の大本命なのにリラックスしていた。
息子は何度も、「全てを出し切ったなあ」と言っていた。
2人とも、テキストやプリントを見てはごろごろしていた。


2日。
娘の大本命の日。
娘も、この学校の説明会や文化祭に4年間通い続けた。
今度は、娘と私、息子と主人のペア。

「じゃっ、行ってきます!」

昨日の娘同様、息子の表情はやる気に満ちあふれていた。
昨日の余韻が残っているのだろう。
足取りも軽く、ホテルを後にした。
娘も、特段いつもと変わりなく学校へ。
激励を受け、受験生がごった返す中、Wisardの仲間を見つけようとしていた。

今日もまた、待機室で2人の学校の試験時間と科目を確認して念を送る。
しかし、今日は昨日とは違う。
特別な意味を持っている。
そう、今日は運命の日、2日。私が最も恐れていた日。
1日・2日に受験した学校の合格発表があるのだ。
更に双子ゆえ、4校の合格発表を見なくてはならない!
1つでも極限状態に陥る合格発表を、4つもだ!
そして最大の問題は、「2人とも」合格しているかということ。
2人とも合格なら、本日で受験終了。
2人とも残念なら、明日試験に臨んで頑張るしかない。

問題はそう、お気づきであろう。「1人だけ」合格の場合だ。
この時、残念な方のフォロー、たてなおしができるかどうか。
本人のメンタルはどうか。
合格して喜んでいる姿を間近で見なくてはならず、これは大人でもしんどい。
こうなった場合、合格した方は先に帰宅することに決めていたが、自分だけホテルに取り残されるのもこれまた辛い。
どちらにしても、若干12歳にして生き地獄。
もう止めると言い出すかもしれない。
それでも、仕方ないと思っていた。
もう、こればかりはその時の状況で判断するしかないだろうと、主人と話していた。
双子受験の残酷さは、これに尽きると思う。


試験終了。
ホテルで再会した我ら4人。
まだ、2校はもう結果がでている時間だが、合格発表を見ていない。
正確には、怖くて見ることができないでいた。
もしかすると、明日も受験することになるかもしれないのに、当の2人、なんとお寿司を食べたいと言う。
試験の手応えは聞かないことにしていたが、2人の表情からはまずまずだったのではと、わずかな期待を抱いた。
半ばやけっぱちで、お寿司を食べに行った。
喜々として食べている2人を見て、複雑な気持ちだった。
こんなことしてる場合だろうか。
もし、明日試験なら早く寝なくてはならないし、数時間後にこの笑顔が消えるかもしれないし。
今の状況、分かっているのかな?
途中で、生もの解禁していることに気づいたが、後の祭り。
ホテルに戻りたくないなと思った。


「ねえ、まだ発表でないの?
○時には、全部分かるよね」
2人が次々に言い出した。
やはり、知っているのか。
まずい。早く見なくては。
結局のところ、結果を見るのは私の精神状態次第だった。
主人も半ば呆れ顔であったし、2人も「ダメなら、明日受ければいいじゃん」と言う。
そんな、簡単に言うなよ!と少し腹立たしかった。
と同時に、どんだけ自信があるんだよ、とも思った。

ホテルに戻り、ついに意を決して結果を見ることにした。
ベッドでごろごろしていた2人は、むくっと起き上がった。
「どっちが、先に見る?」
2人とも手を挙げたので、じゃんけんをして息子から見ることになった。
その途端、息子の様子がおかしくなった。
「ちょっと、待って!」
と言って、辺りをうろうろし始めた。
もう、何分経ったのかな。何かに似ているな。
ああ、出産を待合室で待っている旦那さんのシーンだ!
私が言うと、娘は爆笑した。
業を煮やした娘が自分が先に見ると言い出すと、息子はそれを制し、ついに覚悟を決めた。


急にしんと静まりかえった。
扉を閉めて、息子と私だけ隣の部屋へ。
意外にも、第1志望校を先に見ると言う。
スマホで、第1志望校のホームページへ。
受験番号入力。
あとはもう、ログインを押すだけ。

「ログイン押したら、結果がでるからね。
いい?いいと思ったら自分で押して。」
黙ってうなずく息子。
大きく深呼吸する。
そして、画面に映っていたのは・・・

「合格おめでとうございます!!」

画面が開くと同時に、私は絶叫した!
息子と抱き合って何度も飛び跳ねた。
息子はというと、声は出さずただただ泣いていた。
「あ、受かったんだね!
声、聞こえてますけどー(笑)」
隣の部屋から、娘の声がする。
歓喜も止まぬうちに、第2志望校の結果も見る。

「合格おめでとうございます!!」

再び、雄たけび。
これにて、息子の中学受験終了!
泣き顔から笑顔となった息子は、晴れ晴れと誇らしげに、妹と主人の元に凱旋帰国となった。


これにて一件落着!と、いかないのが双子受験の辛いところ。
次は、妹の番だ。
嬉し涙から一転、再び神妙な面持ちになった。
「あー、緊張してきた」
と娘は言うが、こちらには伝わってこない。
戦に向かう武士のような表情だった息子と比べると、緊張や悲壮感をあまり感じなかった。
こちらも、第1志望校から見るとのこと。
スマホからホームページ、ログイン。

「第1回合格者」

合格者番号がずらーっと書かれており、自分の番号を探す形式。
息子の場合は自分の結果だけが分かる形式のため、ログイン後一瞬で分かったのだが、こちらは掲示板発表のようで、緊張する時間が発生した。
無言で探す2人。


「えっ?うそっ・・・」

番号がない・・・・・・娘は顔面蒼白となり、硬直していた。
私も、一点を見つめたまま動けなくなった。
しかし数秒後、

「あーーーっ、あった!
もうー、よかったあ!」

抱きつく娘。
私もきゃーと叫び、ぴょんぴょん跳ねた。

お察しの通り、合格者番号が横並びなのに縦に見てしまった。
しかも親子揃って。おかげで、一瞬息が止まった。
金輪際やめてほしい。
心臓に悪い。
話にはよく聞いていたが、まさか自分達がするとは思わなかった。
目がすべるってあるんだな。
見てるようで見てないもんだな。
皆様、健康のためにもお気をつけて。

「なんだ?なんだ?受かったんだね。」
今度は、息子がお返しとばかりつっこみを入れた。
さっきまで泣いていたのに、もう余裕綽々といった表情。
第2志望校は・・・こちらも自分で受験番号を探すのか。
今度こそ慎重に・・・。

「あったーーー!!」
こちらは、縦並びだった。
うーむ、紛らわしい。
娘もわーいわーいと飛び跳ねながら、息子と主人に報告。
これにて、娘の中学受験終了!

ついに、我が家の双子の中学受験、本日2月2日をもって完全終了!!


終わってみれば、1月校も含め、2人とも全勝であった。
ありがたいことに、4日朝にホテルをチェックアウト予定が、1日浮いてしまった。
ただ、3日には娘の、4日には息子の合格発表と手続きがあるため、このまま予定通り宿泊した。

双子受験最大の喜び、それは合格の喜びを2倍味わえること!
お互いの合格した学校に一緒についていき、高揚したあの雰囲気を堪能した。
親の私達も、その恩恵にあずかることができ、我が世の春といった気分であった。
サピックスの仲間とも再会できた。
4年の頃からずっと一緒に頑張ってきたので、あー、○○ちゃんも頑張ったんだね、と胸が熱くなった。
ライバルの関係から一転、これからはクラスメートだね。
よろしくね。
しかし、長かった。
本当に長かった。
楽しいことよりも辛いことの方が多かったように思う。
だが、合格したことで、その思いは払拭された。
胸のあたりがすっきりとした。
ここ数年感じることのない爽快感。
「胸のつかえ」は、確実に存在する!


5日、久しぶりの登校。
先生や友達から、たくさん祝福されたとのこと。
気づけは卒業間近!ということに、まるで浦島太郎の如く驚いた。
その後も、学校から慌てて帰ってきて、SAPIXやWisardに行こうとしていた、受験は終わったんだと知り、少し時間を持て余し気味。
ずっと家にいて、不思議な気分。
まあ、しばらくはゆっくりしたまえ。

ぐるっと部屋を見渡すと、壁一面に貼られた過去問進捗表や暗記物・サピックスの保護者会で書き込んだプリントなど、まだまだ受験の名残りが目に飛び込んでくる。
中でも一際目をひくのが、Wisardでの1月の追加授業の予定表だ。
今見るとその日程にぞっとするが、その日程を考えたのが自分だということに二度ぞっとした。
人間、なりふり構わなければ何でもできることがよく分かった。
今回よりもストレスフルなことは、今後の人生においてまずないだろう。
今回の危機!を無事乗り越えたことでレベルが上がり、勇者に近づいたのではと思う。
と同時に、今後これだけがむしゃらに突っ走ることはないことに寂しさを覚えた。
本当にWisardなしには、双子受験はありえなかった。
本当に感謝してもしきれない。


Wisardへのお礼参り。
双子と一緒にあの坂をのぼっていく。
初めて、Wisardに連れて行った日のことを思い出す。
兄が通っていたWisardに行けるんだ!と喜んで、2人はこの坂をのぼっていた。
つい1週間前までは、不安な気持ちでのぼったこともあった。
サピックスへ移動中に食べさせようと、たこ焼きを買ってのぼったこともあった。
長男の頃から数えて10年、いろんな感情と一緒に、私はこの坂をのぼってきた。

4月になれば、いよいよ中学生。
長男と一緒に3人で電車通学。
無事、起きられるか心配であるものの、当の本人達は今からとても楽しみにしている。
息子は、学校の帰りにWisardに本を借りに行くと言っているが、路線が違うの分かってないな。
乗り換えないと通り過ぎるぞ。
私はというと、2人分の恐ろしい教材やプリントの山を目の前に茫然自失。
早く片づけなくてはと思っているが、壁に貼った「1月追加授業予定表」のプリントだけは、しばらくこのままにしておこうと思う。



結局、Wisardには10年間お世話になった。
「W」と打てば「Wisard」、「あ」と打てば「阿部先生」と真っ先に出る私のスマホ。
この10年で、Wisardの快進撃を目の当たりにすることもできた。
先生方のたゆまぬご尽力と人徳の賜物であろう。
先生方が、生徒達と接してらっしゃる姿を拝見していると、先生という職業はなんて素敵なのだろうと、幾度となく感じた。
先生方が増えられたこと、FacebookやWISARDNETの開始、そしてついに赤坂への進出!
本当に喜ばしい限りだが、先生方のお身体が心配になる。
阿部先生のジム通いはどうなったのかも、密かに心配している。
どうぞご自愛下さい。 


しかしその一方で変わらないこともある。
阿部先生と畠中先生が、凛とした声で子供達へ挨拶されること。
そして、子供達へ敬語で接してらっしゃること。
とても紳士的。
阿部先生はずっとお若いままで、スタイルもキープされている。
相変わらず、見た瞬間賢いと分かるシャープさ(すみません)。
でも、ダッフルコートに赤いマフラーという反則技をお持ちである。
畠中先生は、いつ何時もおしゃれであった。
お忙しいのに完璧なヘアスタイルとファッション。
女子の間では、おしゃれだと評判だったらしい。
さすが、女子。男子には分かるまい。
絶対トレンチコート似合うよねと、娘と話していた。
主人と同じくらいの身長かな?と隙あらば目測していたが、結局分からずじまい。
この任務を娘に託すも、遂行ならず。
お聞きすればいいものを、奥ゆかしい我ら2人。
そして、声も素敵。我が家の留守番電話用に録音をお願いしたかった(昭和)。


そして、最大の「ミステリー」。
それは、先生方の年齢と、ご結婚されているかどうかということ。
と言いながら、我が家では畠中先生は結婚されていて、お子様もいらっしゃる設定になっている。
なぜか自信がある。
畠中先生がたまに数日間お休みの時は、今頃家族サービスされているのだろうなと我が家で盛りあがった。
そして、センスの良いクリスマスカードは、畠中先生の奥様の手作り。
御夫婦そろって、とても素敵。
毎年楽しみにしている。
一方で、阿部先生に幼稚園や小学生のお子様がいらっしゃったらどうしよう?と、我が家で騒いでいた。
案外、ご結婚が早かったかもしれない。
大きなお世話で恐縮。
う~む、おそらく真相は永遠に謎だろうが、それもまたよいのでは。
でも、ご存じの方がいらっしゃればご一報を。

気がつけば新学年がスタートしていて、こちらも緊張の面持ちになる。
新しい生徒さん達があの坂をのぼって、Wisardの門をたたく。
卒業生達があの坂をのぼって、ふらりと顔を見せにやって来る。
通りを歩く人達は、響き渡る先生と生徒達の声を聞いて一瞬立ち止まり、再び坂をのぼり始める。
いろんな思いを抱いて、皆あの坂をのぼっていく。
今度、私はいつあの坂をのぼるのだろうか?
まあ、そう焦ることもあるまい。
あの坂は、いつまでもWisardへと続いているのだから。



【後輩の皆様へメッセージ】

どうぞ、あの坂をのぼってWisardに通い、精進してください。
Wisardは、あなた方の思いを受け止め、全力で応えて下さいます。
そしてWisardの存在は、あなた方にとってかけがえのない心の拠り所になるでしょう。
Wisardとは、そういう場所なのです。
10年間お世話になった私が言うのだから、間違いないですよ。
そしてWisardの「謎」を解き明かしたら、ぜひお知らせ下さい。
お待ちしております。

最後になりましたが阿部先生、畠中先生、長い間本当にご指導ありがとうございました。
先生方のご健勝と後輩の皆様の輝かしい未来、Wisardの益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

Wisardよりメッセージ

進学おめでとうございます。

お兄ちゃんをお預かりしていた時から、もう10年近くがたつとは驚きですね。
信頼してお預けいただいた双子のご兄妹を志望校に送り出すことができ、心から喜んでいます。

教室ではいつも真剣に取り組んでくれる2人でしたし、最後の仕上がりも万全。
ですから、結果について心配はしておりませんでした。
ただ一方で双子での受験という難しさはやはり気になっており、順当にいってほしいと願っていました。
本番では、お二人が周囲の大人の心配を杞憂と笑いとばすかのように堂々と臨み、合格をいただけたことは何よりです。


以前お母さまから、「やればできる」だけの子ではなく、「やることができる」子に育てたいというお話を伺ったことがございました。
お二人とも、まさにそんな子に育っていると感じています。
こんなお子さんたち3人を育て上げることは、苦労も楽しみもとてつもなくたくさんあったはずです。
今回、中学受験というハードルを乗り越えましたので、お母さまは少しだけ、肩の荷を下ろされてください。


最後に、自分たちのことが書かれているとは思えないほど、Wisardのことを評価していただき、10000文字超え!!の読み応え抜群合格体験記も、ありがとうございました。
この仕事を選んでよかったと、感慨深く読ませていただきました。

もうこれでご縁がなくなってしまうことを残念に思いますが、何かございましたら、いつでもご連絡ください。
お兄ちゃんの、そして双子のご兄妹の活躍を、ぜひ伺いたいと思っております。

阿部

2020年