少女Hの数奇な受験生活

Nさん(2021年度/筑波大附属中 進学)

少女Hは、僕にひととおり話すと去っていった。

中学受験というものを経験した彼女は、
およそ3年間の思い出を語りだしたが、
それは一言で表すと、「波乱万丈」だった。
さて、まるで小説か何かのような少女Hの受験記を、ここで紹介しよう。


少女Hが中学受験を決意したのは、新4年生の頃。
日能研を訪れ、入塾試験を受ける。
彼女はもともと勉強が嫌いではなかったが、
別に計算や漢字、科学を習ったことがあるわけでもなかった。

Mクラスに入れていればいいな、そう話す彼女のもとに報せが届く。
Top of Mクラス……TMクラスのスカラシップへの編入のお知らせだった。
ちなみに、ここで彼女は自分の得意教科が国語であることを知る。

そして、彼女は日能研に通うことになるが、同時にWisardにも訪れる。
日能研で、彼女は初めて本格的に勉強を始める。
特に彼女にとっては、理科・社会の授業は新鮮なものであったといえよう。
もともと理社に興味のあった彼女は、知識を増やしていった。
Wisardにおいても、彼女は講師である阿部の鋭い発言にひかれながら、
学びを深めていった。


しかし、塾での定期テストを重ねていくうち、
とある問題点が浮き彫りになっていく。
それは、彼女が算数はとても苦手であるということだった。
Wisardの授業で少しは改善されたものの、
得意の図形を除いては足を引っ張りかねない教科……、
それが彼女の中の算数の位置づけであった。

5年の夏休み、彼女は過密なスケジュールに音を上げ、日能研を去る。
彼女は決して体力のある方ではなかったのだった。
以降、国語と算数は補習塾Wisardで行い、理科・社会は家で行う、
つまり、大手塾に頼らない生活を送ることになる。

大胆な決断だったが、この時期彼女は実力を伸ばしていった。
そして、それは新6年生になった頃に発揮される。


彼女は新6年生になり、SAPIXの扉を叩く。
SAPIXでの偏差値60は他の教室の偏差値70に値するといわれるほどの難関であったが、
サピックスオープンを受けた彼女は偏差値67をたたき出し、
α1に編入された。
しかし、彼女は同時にWisardを去って行った。
体力の問題だった。

SAPIXに通い始めて、彼女は急速に理科と社会への関心を増した。
原理を重んじる教育方針は、彼女の疑問を解決していく。
知識の忘却を防ぐスパイラル方式とも相性がよかったらしく、
彼女はほぼほぼ満足していた。


ただ、そんな状況もSUNDAY SAPIX……SS特訓が始まると、一変する。

平日は学校があり、塾の授業があり、授業前のテストへの対策があり、
土曜には特別講習があり、日曜にはSSがあり……、彼女は休日を失った。
そして、「彼女は決して体力がある方ではなかった」。

奮わない成績が続き、クラスも下がり、疲れから暗い日々を送る彼女は、
SSに特殊な方法で出席したりもした。
それでも状況が改善せず、SAPIXをやめ、またWisardに戻ったりしていたが、
彼女の家族はある大きな決断を行う。


少女Hの黄金時代はいつだろうか……。
それは大手塾に通っていなかったころだ。
それならば、その環境を再現すれば、調子も戻るのではないか?

そう彼女は、すべての塾をやめた。
塾に行かなければ得られない技術・知識はもうこれまでに全て習った。
これからは知識の穴埋めと演習が学習の中心になる。
それならば、もう塾は必要ないのではないか?と。

もちろん塾の教材や公衆に頼るところは頼る。
しかし、彼女は家で問題を解き続け、基礎を確認し続けた。

その結果、算数でさえ過去問では6割はとれるようになった。

そして、彼女は受験した学校全てに合格する。
試験会場から出てきた彼女はいつもこう言った。

「まあ、けっこう楽しかったよ」

以上で彼女の話は終わるが、まさに「波」だったといえるだろう。
上昇と行き詰まりの繰り返し。
ただ、僕はこのお話を聞いて、大団円だと思った。
ちなみに彼女は去り際に、書き置きを残していった。
それもお見せしよう。


「私が感謝しなければならない相手は、たくさんいます。
いるのだが、ここでスタッフロールを始めてしまうと、
たいへんな長さになってしまいます。
ということで、まとめて感謝をここに表しておきます。
今まで、ありがとうございました。


そして、私は女子学院の合格者の1人ですが、
この学校が多くの人が目指すというので、後輩にアドバイス。

女子学院は4教科均等配点。
つまり、国語・算数と、理科・社会の重要度が等しいです。
国算の能力はどの学校においても重要ですが、理社も同じくらい大事にしてほしいです。
このことは均等配点でない学校にも言えます。
私の第1志望の筑附などは、高得点争いになるからです。

また、内申点が重要になる学校もあるということで、
小学校や小学校教師に対し、
たとえ理不尽なことがあっても、

「理不尽を見抜くのは相手を追い越した証であり、
そして上に立つ者は、広い心を持たなければならない」

と一抹の敬意を忘れないようにしましょう。

そして、このアドバイスの相手は後輩だけではありません。
これをいま読んでいるだろう、






そう阿部先生」

Wisardよりメッセージ

進学おめでとうございます。

こうして振り返ると、3年間色々なことがありましたね。
まさに波乱万丈ですねえ……。

「なんでも知っているな」
「この子は、何を話しても理解できるな」

という高い能力の一方で、
いわゆる受験勉強の枠組みのようなものを我慢し、
右にならえで、みんなと同じようにふるまうことを、
つまらないと感じるところもありました。


僕はそれでいいと感じていますし、
通塾が多すぎるというのも、本来は常識的な感覚ですから、
それでOKだと思っていました。

何より、国語科の畠中が、

「もうすでに仕上がっており、
確かに塾での国語の授業は無駄。必要ない」

というほどの国語力があり、6年生の夏休みまで我慢して、
ひととおりの内容を履修しましたから、
中学受験生としても、きちんと整っていましたから、
いつも余裕がありました。


筑波大附属という唯一志望校に進学できたことは、
何よりでした。
「この子、マジですごいな」と小学生の君に対してよく感じていたので、
これからは、どんなことになるでしょう?
とても楽しみにしています。

あとアドバイスもありがとう。
僕はいつも誰に対しても敬意を払う謙虚な性格なので、
たぶん大丈夫です!!(笑)

阿部

2021年